奨学金は足かせに!? “借金まみれ”の恐怖で研究者を断念する若者たち
週刊SPA! 8月1日(月)9時10分配信
「大学教授を目指していましたが、大学にいても奨学金の返済額が膨れ上がるばかりで、借金まみれになるのが怖くて進学をあきらめました」
昨年、2年の修士過程を終え、大手電機メーカーに就職した日下部佑樹さん(仮名・24歳)は、入社2年目ながらもすっかり憂いの表情を浮かべている。「働けど働けど、生活楽にならざり」とは、まさにこのことだ。
「ウチは世間的にはホワイト企業の代名詞とされていますが、毎日残業ばかりで休日に出勤することも。それでも手取りは18万円程度で、そこから学士と修士の期間で借りた奨学金を月3万円ずつ返すと手元にはわずかなお金しか残りません。毎日、何のために働いているのやら…。進学しておけばよかったですかね」
近年、学生時代に借りた奨学金が原因で、自己破産一歩手前まで追い詰められる若者が急増している。日下部さんのように研究者の道を目指していても、奨学金の借金まみれになる怖さから夢をあきらめる学生は多い。日下部さんは残業と奨学金の返済に追われ、自由に使える時間とお金はほとんどない。
◆研究者にとって奨学金は足かせに
東北芸術工科大学で非常勤講師をつとめる栗原康氏も奨学金を借りた一人だ。自身も635万円の奨学金返済額を抱える栗原氏は「わたしは修士課程・博士課程の5年間奨学金を借りていて、借金の総額は635万円に上りました。普通の就職活動をしたことがないので当たり前かもしれませんが、卒業後は仕事に恵まれず、一時期は年収が10万円ということもありました」と話す。
現在の学生、大学院生、研究者の約半数が日本学生支援機構から奨学金を借りざるを得ず、借金漬けにされる実態がある。借金を返すのは社会の道徳であり、「金を返せなかったら人でなし」の烙印を押されるのだ。研究者を目指す人たちは、奨学金が足かせとなり、研究がうまく進まないこともあるという。
「そもそも、借金をしたくないので大学院に行かない人は相当数います。賢い人ほど、就職するかもしれないですね。実は、大学院だとさらに奨学金の額は大きく、月に11万、13万円とか、その分返さないといけない。やっぱり切羽詰まりますよね。一般の就職よりも、研究職は門戸が狭いですから」(栗原氏)
政府は「ニッポン1億総活躍プラン」で、返済不要の給付型奨学金について「創設に向け検討を進める」と明記した。事実、安倍晋三首相は「給付型奨学金の予算を来年度にも盛り込む」と参議院選の翌日に発言している。奨学金返済の恐怖は、研究者にとってどのような心理をもたらすのか?
「奨学金を借りて大学院に行った途端、専任になるための文章を書かなきゃという意識が芽生えるわけです。大学院の修士、博士と進んだが、大きな借金ができてしまった。ではどうすればいいかと言うと、いい成績、成果を上げなければなりません。査読付き研究論文を年に3本以上とか、アカデミックな研究論文の本数を増やして業績を上げなくてはいけない。本来ならば、大学院も好きな勉強をゆっくりできるモラトリアム期間だったはずなのに、それよりもいかに仕事をとるための文章を大量生産するかを考えさせられる。カネと業績のために、自分が学んできた力のすべてが収斂され、仕事のための研究になってしまう」(栗原氏)
無計画に借りる学生側に非がないとはいえないが、本来は学生を支える存在だった奨学金がいまや逆に足かせに。さらに研究者に問われているのは、就活にも求められるコミュニケーション能力だ。
「先生との人間関係で、専任講師の仕事を振ってもらえたり、博士論文を通してもらえたりするわけで、そこで問われているのは、就活で言うコミュニケーション能力です。もしこれがいやでも、奨学金を背負っているほど、先生に逆らえなくなる。本来は一番自由度が高くていいはずの、いろんな意見が言えなくちゃいけないはずの研究者が去勢されてしまっているんです」(栗原氏)
今や奨学金は学業や研究を後押しするばかりか、若者にとっては“借金まみれ”の恐怖として重くのしかかっている。
<取材・文/神田桂一 北村篤裕(本誌)>
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