理系女子増やせ!中高生向け実験教室など続々
若者の理科離れが指摘されるなか、理系の女性を支援しようという取り組みが全国で広がっている。山梨大や信州大では科学のおもしろさをアピールしようと女子中高生対象の実験教室を開催。女性研究者の育児支援を拡充する大学や研究機関も増えている。国内の女性研究者の比率は欧米に比べると著しく低いが、国も「科学技術創造立国」を目指し女性研究者の支援事業を始めており、“理系女子”への期待は高い。(油原聡子)
「女子大生とおしゃれに実験教室!」。山梨大が平成18年度から女子中高生を対象に始めた科学イベント「Do!サイエンス」のキャッチコピーの一つだ。講師役を務める大学生や研究者ももちろん女性。ロボット工作などの実験教室やナイトミュージアムなどさまざまなイベントを展開、延べ約160人が参加した。
総務省統計局などによると国内の女性研究者の比率は平成19年度で12・4%と、30%前後の欧米に比べて著しく低い。そもそも大学で理系に進学する女性が少なく、山梨大工学部の高橋智子准教授(50)は「理系の女性がどんな人生を送るのか将来像が描けず、親や周囲の心配もあって断念してしまうことが多い」と指摘する。
日本物理学会(会員数約1万8000人)では、平成9年度に初めて女性が会長を務めるなど理系分野での女性研究者の活躍も目立ち始めている。託児所付きで学会を開催するケースも増えてきたが、メディアなどへの露出が少なく、あまり世間に認知されていないのが現状だ。
Do!サイエンスで講師役に女性を迎えたのも、女性研究者を身近に感じてもらおうという狙いがあったからだ。参加者からも好評で、今春、同大工学部に進学した黒川恵未さん(19)は「女性の先輩と知り合って大学生活が具体的にわかった。進学の不安がなくなった」と話す。
女子学生獲得に乗り出す大学も多く、信州大では、女子中高生とその保護者を対象に軽井沢や上高地などの観光地で実験教室を開催。金沢工業大では女子限定の入試を行っているほどだ。
育児支援を充実させる取り組みも始まっている。女性研究者は出産・育児で研究が中断されるため、復職が難しいと言われてきたが、東京薬科大では今春からバイオ系の修士・博士課程を修了し、休退職した女性を対象に講座を開講。最新の知識やスキルを学ぶほか、バイオ系企業でのインターンシップや就職先の斡旋(あつせん)も行う。
キャリアを中断させることがないように工夫したのが新潟大だ。昨年12月、「女性研究者支援室」を設置。今年度中には、育児休暇中などで在宅の女性研究者と研究室をインターネット回線で結び、実験などを一緒に行えるようなIT環境を整えるほか、構内で学生による一時保育支援を行う予定だ。
進学しても、その先がなければ女性研究者は育たない。進路選択から、復職、育児まで幅広い支援が必要だが、文部科学省基盤政策課は「科学技術創造立国を目指す日本では多様な人材の確保が必要。女性研究者の活躍で研究は活性化する」としており、支援の動きは加速しそうだ。
今年のDo!サイエンスチャレンジは8月10日から13日まで山梨大甲府キャンパスで。実験教室やサイエンスカフェのほか、進路選択の個別相談にも応じる。参加無料。問い合わせは同実行委(電)055・220・8408まで。
■「仕事は生きがい」 山梨県立科学館・高橋さん
山梨県立科学館で天文担当として活躍する高橋真理子さん(38)は一男一女の母親だ。
埼玉県出身の高橋さんは、北海道大地球物理学科を卒業後、名古屋大大学院で学んだ。山梨県立科学館への就職を機に27歳で結婚。夫の幸弘さん(43)は東北大の惑星大気研究室で講師をつとめる理系夫婦だ。仕事のために別居が続いているが、「同居よりお互いのやりたいことを優先したけれど、仕事は自分にとって生きがいなんです」と話す。地域に根ざした独自のプラネタリウム番組制作や公募の1行詩で作った「星つむぎの歌」などに携わり、今年、青年版国民栄誉賞といわれる「人間力大賞」(日本青年会議所など主催)を受賞した。
その一方で、29歳で長男の蒼太君を出産。幸弘さんと半年ずつ育児休暇を取って乗り越え、4年後には長女のみなみちゃんを授かった。子育ての苦労はもちろんあるが、高橋さんは「時間の配分や気持ちのバランス取れるようになったと思う。それに、子供はいろいろな発想を与えてくれます」と笑顔で語った。