「漂う博士」大学は就職支援に本腰を
博士のフリーター化が進んでいる。なぜか、どうすればよいのか。
本紙の2度にわたる連載「漂う博士」が問いかけている問題である。
1990年代前半から、大学院の拡大政策がとられ、博士課程在籍者は急増した。さらに96年から「ポスドク等1万人支援計画」が実施された。博士号取得者がポスドク(博士研究員)として、短期間の任期付きで奨励金や給与を得て研究するシステムだ。
だが、その後の定職がない。任期付きの職を転々とし、40歳近くになっても能力を生かせる仕事につけない研究者も少なくない。連載は、そうした人の思いを掘り下げて伝えている。
これではいけないと文部科学省は昨年から、「科学技術関係人材のキャリアパス多様化促進事業」の実施を始めた。博士の進路を産業界などへ広げる。そのための実施計画を大学、研究所、学会などから募り、評価委員会で審査して予算をつける。私も委員会にかかわっている。
そこで痛感するのは、ポスドク問題の解決には、大学や研究所の組織的な取り組みが欠かせないということだ。
「漂う博士」の原因は、どれだけの博士の需要があるかを問わないまま、大学院拡大策をとったことにある。だが、問題はそこにとどまらない。
大型研究プロジェクト達成のための「労働力」として使われる院生、ポスドクがいる。自分の研究ができない。
博士号取得者には、企業への就職を敬遠する傾向もある。だが、これとて、企業で必要とされる幅広い能力が育成されているのか、企業情報が伝わっているのかという問題がかかわる。
多様化促進事業ではこれまでに12件の実施計画が採択された。様々な研修、相談員の配置、若手研究者と企業の情報交換システムの構築など、内容は多岐にわたる。
だが、一部の教員、担当者の取り組みであることが多い。若手研究者の就職をこころよく思わない指導教員の存在も指摘されている。教員の意識改革、組織全体での取り組みが急務だ。
先月末、都内のホテルで北海道大学の若手研究者と企業の人事担当者らによる交流会が開かれた。研究者は、自分の研究をポスターにまとめて展示し、説明した。取得した特許、身につけた研究上の技術なども発表した。企業ごとの相談ブースが開設され、研究者と担当者は額を寄せて話し込んだ。
これからは、若手研究者の進路へのサポートも、大学評価の対象となる。そう思わされた交流会だった。
(教育ジャーナリスト・勝方信一)